J-FETを測定しよう

img_7877

神経質になり過ぎないことも重要。

購入したアンプのサウンドの秘密が知りたくて、ほぼ同じ回路のアンプを組んだのですが、再現性、安定性がとても高く、更にいろいろ応用が利きそうな回路でした。
どのくらい安定で応用が利くかというと、 実はほぼ同じ回路と言いつつ、元のシングルでもブリッジバランスでもない、完全差動のバランス構成にしちゃってるんですが、サクッと動作しています。
現在、友人宅で評価を兼ねてランニング中です。
(夏場ですし、かなり音圧高めの運用をしていただいているので、いじめ試験とも言います。)

差動とかコンプリメンタリな回路を組むには、同じ特性のトランジスタ/FETをペアで使うのですが、問題は、この半導体と言う代物、特性のバラツキがものすごい部品で、同じ型番内でランク分けされてたりもしますがかなり大雑把で、感度、増幅率などが一ケタ違う個体が平気で混在してます。
ここら辺の半導体の特性が「素性の悪さ」として、真空管原理主義な方々の攻撃対象になってたりもします。(使い方次第だと思うんですが。。w)

大抵のメーカー製アンプは、このバラツキを調整や回路の工夫で吸収する様に設計されていることが殆どですが、一部の尖った設計の商品や、自作派で有名な金田式など、かなり厳格なペアマッチングを要求するものもあります。
これは設計思想レベルの話で、どちらが良いとか悪いとかの話ではありません。
マスプロ製品では「手間」と「歩留り」は単純なコストでしかなく、やたら調整箇所だらけなのも製品の長期安定性に不安が残るので、極力無選定、無調整で所定の性能と安定性を出す様に努力されていますし、コスト度外視で極限の性能を狙って選別するというのも、それぞれ好き嫌いでよろしいかと思います。
個人的には(プロとしてなら)再現性高く作れ。と教わってきましたし、そうあるべきと思っていますが。。。

ベンチマークで作ったアンプで驚いたのは、その再現性の高さと安定性でした。
特に、ドライバ、ファイナルのコンプリメンタリは素子のマッチングが全然とれてなくてもバイアスとDCオフセットの調整だけで安定動作しちゃいます。
初段は差動&コンプリかつバイアスが可変抵抗1つで設定されるので、ここの素子間バランスはある程度効いてきますが、調整幅が大きいので、相当ルーズでも大丈夫そうです。

で、何を思ったか、部品を大人買いしてきちゃいました。

初段用のJ-FETとドライバ用トランジスタを同一ランク無選別100個ずつ。
いくらルーズでいいとはいえ、流石に初段はHOT/COLDで電流が倍以上違っちゃうと調整が追い付かなくなったり、精神衛生上もよろしくないので、J-FETは測定しておきましょう。

J-FETの選別に使うパラメーターは、IDSSか、ドレイン電流を一定値にするためのゲート〜ソース間電圧(VGS)です。
IDSSは、VGSが0V時のドレイン電流で、そのJ-FETで流せる最大電流で、9V電池とテスターだけで測れる手軽さがあります。
同型番のJ-FETは、IDSSと特性がおおよそ相関するのでよく使われますが、最大電流が流れるため温度が上がってしまい、安定するのに時間がかかることが難点です。また、実使用時の動作電流から、かなり離れますので、誤差も大きいです。(ちなみに、ベンチマーク用に買ったJ-FETは、お店でIDSSを揃えたペア品でした。)
VGSは計測用の回路に工夫が必要ですが、実回路で使う(設計上の)ドレイン電流値で測れば、ドンピシャを探し出すことも可能です。
ただし、温度で値がころころ変わりますし、VGS-ID曲線までぴったり合うものは実質的になく、目くじら立てすぎるのもあまり意味がある話ではありません。

とか言いながら、今回は、ドレイン電流1.5mAくらいの時のVGSを測る回路を作ってチェックしてみました。
単純に技術的な興味です。

回路は、Webで見つけたものを参考にしましたが、オペアンプ1回路と単電源で動作する簡単な回路を思いついてブッレドボードで確認したらあっけなく動作。
2回路入りオペアンプ1個でNch、Pch用をそれぞれ組んでみました。
だれが使うかわかりませんが、簡単で安定してるので回路を公開しちゃいます。
配線は図面なしで組んじゃったのでありません。簡単な回路ですのでお好きに作ってください。
jfet

この回路のキー要素(キモ)は、電源電圧の安定性と入力インピーダンスの高いオペアンプです。
回路図には電源が書いてありませんが、18V以上のACアダプタと7815(15Vの3端子レギュレータ)で15Vを作っています。
冒頭の写真の基板でいうと左端が電源回路と測定用スイッチです。
オペアンプはJ-FET入力のものならどれでもOKだと思います。(私は安価なNJM072Dを使いました。)

15Vレギュレーターは電圧を安定させるため、通電しっぱなしにしておきます。
オペアンプの電源は、測定用スイッチに連動させます。
測定しないときはほぼ無負荷ですが、測定時の消費電流が10mAにも満たないのと1回の測定は大体10秒未満なので、負荷変動による特性変化はほとんどありません。

測定用回路はオペアンプの−入力の電圧に、J-FETのドレイン電圧が追従する、ボルテージフォロワです。フォロワなのにオペアンプの入力が−側なのは(フィードバックが+側に入っているのは)、FETのドレインを出力にした場合、位相が反転するためで、トータルで見ると出力電圧をそのまま負帰還しているだけとなっています。
オペアンプの出力から−側にコンデンサでつながっているのはオペアンプの発振防止です。
また、オペアンプをFET入力にしているのは、入力に電流を極力流したくないためです。

フォロワの入力が電源の抵抗分圧で固定されているので、出力のドレイン電圧も同じ電圧で固定されます。
この時、測定するドレイン電流になるようにドレイン抵抗の値を決めておけば、あとはVGSは勝手に調整されるので、スイッチ入れたらテスターでVGSを読み取ればOKです。

通常、初段回路のドレイン電流は1〜2mAですので、今回は1.5mA程度で作成しました。
電源電圧とドレイン電圧の電位差は−入力と同じ5Vなので、ドレイン抵抗は、5V/1.5mA≒3.3kΩとなります。
ソース抵抗は、ドレイン抵抗と同じ値を使います。
ソース電流はドレイン電流とほぼ等しいので、ソース電圧は約5Vとなり、VGSは+−5V近くまで測定できます。
つまり、この回路、J-FETだけでなく、MOSやバイポーラトランジスタのバイアス電圧も測れます。
(バイポーラのバイアス電圧を測る意味があるかどうかは別にしてですが。。)

なお、ソース抵抗とドレイン抵抗の値を変えると、測定用のドレイン電流を変化させられます。
また、1回路入りオペアンプでも、オペアンプの電源以外の電源極性をスイッチで反転させるとそのままPchが測れます。

作ったセットがこちら。
ゼロプレッシャーソケットに向かって、上がNch(NPN)、下がPch(PNP)です。
img_7877-1

そして、大人買いしてきたJ-FETを測定中の図がこちら。
高感度なFETで、測定のためにセットした時の指の温度でも値が変化して安定しなくなります。
img_7883

測定手順は、
1)測定する側のヘッダピンにテスターをつなぐ。
2)18V以上のACアダプターをつなぐ。(今回は秋月の24V1Aを使用)
3)ソケットに測定するFETをセットする。
4)うちわで10秒扇いで温度を安定させる。
5)ボタンを押してテスターの値が安定するまで待つ。
6)ボタンを離して値を付箋に記録。
7)FETを外して付箋を貼る。
8)並べる。
以下3〜8の繰り返し。
結果、200個測って、60mV〜200mVと見事にバラバラでした。
(ここでFETの型番わかる人は相当の手練れとお見受けします。)
5mV刻みで袋に入れて値の近いところから使っていきます。
img_7887