アライメントプロトラクターの作成と調整

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カートリッジの取り付けを調整してみよう。

最近、工作やブログの更新サボってレコードを聴きまくっています。
聞きまくってると、だんだん昔の感覚が蘇ってきてちょっとした事に敏感になったりして、更にアナログ沼にドップリはまってます。 (苦笑)

溝を針でなぞって音を出す。というビニール(レコード)の再生においてどうしてもけられない問題として、外周側(掛け始め)と内周側(掛け終わり)に明らかな品質差が存在することと、針先(スタイラスチップ)が溝をなぞる際に発生する各種エラーによる信号品質劣化が挙げられます。

LPレコードを例にとると、溝の直径が最外周で約280mm、最内周で約120mmと実に2倍以上の開きがあります。
単位時間あたりの針の移動量は直径、円周に比例しますので、内周側は外周側より溝の長さあたり2倍の情報を詰め込む必要があるのですが、逆に言えば内周側は外周側より2倍(実際にはそれ以上)ノイズや歪みを生みやすい環境であるとも言えます。
また、針先と溝の接触部分のサイズや形状およびカンチレバーの長さや保持方法などに起因して発生するトレーシングエラーによる歪み、溝の向きと針の向きがズレることで起きる水平及び垂直トラッキングエラーによる歪みなどがあり、これらが相互に働き、内周に行くほど曲が歪んで聞こえる、いわゆる内周歪みなんていうものが発生します。

この歪みの発生をどれだけ抑え込めるか、というのもビニールレコードの再生においては結構重要な課題です。
そういや、アナログに見切りをつけてもう戻らないと誓ったあの日、その理由の一つがレコード内周側の再生の難しさだったことを今更思い出したりしています。

一般的なトーンアームでは、オーバーハングをプレーヤー(アーム)の指定位置に合わせて使うのですが、J字やS字タイプトーンアームのオフセット角は意外と個体差がありオーバーハングを合わせても結構ずれちゃってることがあったり、諸般の事情で最適位置ではない値が指定されることがあったり、メーカーの設計方針が自分の好みとは違ったりした場合や、自分なりの調整ポイントを探ろうとした場合などには、オーバーハング値ではカートリッジの向きが直接分かるわけではなく、どこら辺で接線方向を向いているかわからない事がネックになります。

そこで登場するのが、カートリッジの向きを直接見るアライメントプロトラクターです。
これは、シェル(=カートリッジ/カンチレバー)の向きが円の接線方向であるかどうかを確認する道具で、アームの専用品や、出来あいの汎用品が売られていたり、手書きで自作する方法を紹介されていたりアーム毎のデータを頒布されている方もいらっしゃるのですが、私のことですのでもっと簡単に作っちゃいます。

必要なものは、方眼紙とカッター。
方眼紙は学校で使う様なB5の最小1mmマスで5mm10mm50mm毎に太い線が描いてあるごく普通のやつ。
100均のもので充分です。

まず、方眼紙を縦長に置き、なるべく左上の一番太い線が交差しているところを太い線に沿って長さ10mm、十字に切ります。
ここがセンタースピンドルに刺さります。頑張って(直径8mmの)丸型に切り抜く必要はありません。四辺の紙がめくれて自然にセンターに位置が合ってくれます。

切れ込みを入れたところの縦の太い線が針を乗せる位置になります。
円の中心から伸びる線の直角方向は、
そう。円の接線方向です。
つまり、センターから伸びる太い縦線上に針先を乗せ、真上から観測して横線とシェルの向いている方向との角度ズレが水平トラッキングエラーとなります。

注意点は、測定中に、針を乗せた状態で動かさないこと。
カンチレバーを痛めたり、スタイラスチップ飛ばしたりなんてことになっても責任とれませんとりませんので、そこのところは自己責任でよろしくお願いいたします。
スタイラスガードをつけた状態で作業するなど、事故を未然に防ぐ工夫も重要です。

では早速見てみましょう。
ターンテーブルに要らないレコードを載せて作成したプロトラクターを被せます。
iPhone手持ちで撮影してるので見にくいのはすみません。

最内周のエンドグルーブが大体55mmくらい、
音が入ってる部分の最小半径が60mmくらい、
最外周が145mmくらいですね。
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まずはオーバーハングゲージでメーカー指定位置に調整した場合。
最内周のエンドグルーブ付近の55mmでほぼまっすぐなようです。
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80mm付近では外を向き
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100mm付近で再びまっすぐになりました。
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125mm付近は少し内向き
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最外周145mmもそのまま内向きの角度が付いています。
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続いてオーバーハングを少し短くした場合です。
内周側のまっすぐ位置は最内周を突き抜けちゃって38mmくらいになっちゃってますね。
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最内周付近でのエラーは外向きでかなり大きめです。
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外周側は120mmくらいでまっすぐになります。
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最外周のエラーは小さめです。
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最後に、オーバーハングを大きめにとった時です。
最内周では気持ち内向きのエラーがあります。
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内周側70mmくらいのところでまっすぐになりました。
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外周側は100mmくらいでまっすぐです。
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最外周は内向きエラーが少々大きめです。
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実際に聞いてみますと、やはり内周ではエラーが大きい方が歪みが大きく聞こえます。
なお、最初に説明した通り、トラッキングエラーは歪み発生要素の一部でしかなく、この調整をしたからといって内周歪みが「なくなる」わけではありません。
相当抑えられるのは確かですが。。
つまり、リニアトラッキングでも完全な解決は出来ません。

ということで、我が家のPL−50LIIのユニバーサルアームの場合、規定値で最内周エンドグルーブでエラーが小さくなるようです。
設計通り(このユニバーサルアームが正確に作られてる)とすると、良心的な設定と思われます。
ただ、私が持ってるレコードで実際に音が入ってる部分の一番内側でエラーを小さくするように考えると、規定値より僅かにオーバーハングを長くとったほうが実際のエラーは小さくできそうです。
外周側のエラーは少々大きめになりますが、外周側のエラーは音への影響が小さく、実際に聞いても問題は感じられませんので「気持ちオーバーハング大きめ」でいきたいと思います。

これで抑え込めない歪みは?
というのはまた別の機会に書きたいと思います。